亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
荷物を降ろしている商人らしき男の脇を通り抜け、その馬車に繋がれているビーレムの背に跨がった。
驚く商人を傍目に、馬車とビーレムを結び付けている紐をナイフで断っていく。
「……あ、あんた……何をして……」
「借りるぞ」
ローアンはそれだけ言って、フードを被り直した。
年若い男装をした奇妙な少女が、勝手に自分のビーレムに跨がり、勝手に手綱を握っている。
周囲にいた人々も何事かとざわめいた。
……その人込みを掻き分けて、奥から兵士達が走って来る。
「………ローアン様!………何を!!」
「……何処に行かれるつもりですか!!」
ローアンはゆっくりとビーレムを前進させる。
「―――私は城へ向かう。………心配要らん」
「……城へ!?……………お、お止めください!!」
「――…総団長の御命令です!城へ行ってはなりません!!」
必死で止めようとする兵士達。しかし、騒々しい人込みは前に中々進めず、当のローアンも聞く耳を持たない。
注目の的となっているローアンは、怪訝な表情で見てくる人々に向かって、凛とした声を上げた。
「………この場にいる民よ、聞け!……………北の荒野で生じている争いは、今までのものよりも更に激しさを増すだろう。…夜明けまで、女子供は家屋に隠れ、男は街の火を絶やすな!!…………………朝を待て!この一夜を………無事に生きよ!!」
ローアンは街の門へと方向転換した。
人々は無言で、門への道を空けていく。
動揺を隠せない商人は、瞬きを繰り返しながらローアンに言った。
「………あんた…………何者だ……………死ぬ気か……?………戦場にって………怖くないのか…?」
……ローアンは笑みを浮かべた。
「―――…笑止」