亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
信じがたい光景が、目の前にあった。
物凄い力でキーツの剣を押す、見えない風。
…………なのに………………その風には、ズラリと並んだ牙があった。…………いや…………口だ。魚の様な………………巨大な口。
血腥い異臭の漂う牙が、ガリガリとキーツの剣と擦れ合う。
赤黒い不気味な舌が、鋭利な刀身を邪魔と言わんばかりに押して来た。
………剣を持つ手が震える。
………押し負けそうになるのを、必死で耐えた。
「―――……ガアアアアアア!!」
襲いかかる見えない突風の塊に近付き、ルアが角の青い玉を光らせた。
ブンッ……と、青白い光がこの一帯に発散したかと思うと、突然風の塊はキーツから離れた。
………聖獣の光を浴びたせいだろうか。
正面で停止したまま吹き荒れる風の塊に、本体と思われる、黒光りする輪郭が浮かび上がってきた。
………大きく開いた不気味な口から、徐々に露わになっていく姿。
………鱗で覆われた、黒い巨大な魚の様な化け物。
宙を扇ぐ尾は刃の様な鈍い光沢を放ち、背中には蝙蝠に似た羽が生えている。
………見たことも無い、本当の……化け物。
その異様な姿に、驚かない者はいないだろう。
………しかしキーツの瞳は……………もうこの化け物を映してなどいなかった。
………彼のオッドアイは………胸の奥底で渦巻き続けていた憎悪を今この時、露わにした。
化け物の背中に佇む人物を。
昔と変わらぬ薄い笑みを浮かべて自分を見下ろす…この男だけを。
「―――………クライブ………!!」