亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
何処を見ても闇しかない。
ジメジメとしていて太い根がはびこる深い森。足場も悪い、視界も悪い。
頼りになるのは曖昧な記憶と、闇と共に生きていた際に極限まで高められた感覚のみ。
“闇溶け”をしていなくとも、暗闇を疾走することは出来る様になっていた。
ぼんやりと見える木々の群れの輪郭。
―――それが突然、グラリと傾いた。
「―――……あっ……!?」
宙に投げ出される感覚。木の幹に体当たりしそうだった体勢を整え、何とか着地した。
ローアンは急いで、今まで乗っていたビーレムの元に駆け寄る。
………ビーレムは苦しそうに口から泡を吹いて倒れていた。
鍛えられた足は痙攣し、胸を大きく上下させて荒い呼吸を繰り返す。
…………無理も無い。
首都から城までかなりの距離だ。しかも通る道は沈黙の森。普通の山道よりも体力を削られる。
………そんな果てしない道のりを、このビーレムはよく走った。
………城まで、あと少し。
ローアンは「ありがとう」と呟き、ビーレムの頭を撫でた。
「…………お前は休め。……ここからは、自分一人で行く………」
フードを被り直し、剣を握ってローアンは深い闇に向かって走った。
方向はあっている筈だ。
……………風に混じって、血の臭いがする。
……………荒野は今、どうなっているのだろうか。
……たくさんの命が……人間が……生き物が……死んでしまったのか。
…………早く城を………開けないと。
…………開城して………どうなるのだろうか。
………敵の手に落ちれば……これも無駄か。
………いいや。無駄にはしない。