亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
トゥラは黙ってローアンを乗せたまま、縄張りであり、庭でもあるこの沈黙の森をひたすら走った。
………。
ローアンはトゥラの身体にしがみつき、艶のある毛並みをそっと撫でた。
「…………馬鹿だな…………私はもう……主人ではないのだぞ………」
ローアンの声は過ぎ去る風に流れていく。しかし、トゥラの耳には届いている筈だ。
それでもこの相棒は、ただただ……役に立とうと動いてくれる。
………寡黙な獣。
いつも黙って身体をすり寄せて、甘えてきた。
………目尻に溜まった涙が流れ、その跡を冷たい風が冷やしていく。
「………良い子だ」
グッと涙を拭い、ローアンは前を見据えた。
「………城まであと少しだ。このまま駆けろ、トゥラ…」
トゥラは高い岩場を飛び越え、大きく跳躍した。
…………樹木の隙間から一瞬だけ、戦場の明かりが見えた。
………空高く火の粉が舞い上がっているのが、はっきりと見えた。
―――……そして…。
(………?)
………見間違い…だろうか。
舞い上がる火の粉とは反対に……………。
……………黒光りする砂埃の様な闇が………戦場にゆっくりと降り注いでいた。
トゥラが下降したため、確認することは出来なかったが。
………嫌な予感がした。
何だろうか。
…急に…………。
……………ゾッとする様な寒気が、背筋を走った。
「…急げトゥラ…!」