亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
そこら中から溢れ出す影。
大小の影が見境無く牙を振るうにも関わらず、戦場のとある一点では凄まじい魔力の吐息と散乱する呪文が飛び交っていた。
その周囲は、地面を削った様な跡が何度も何度も付けられ、徘徊していたいくつもの影がまきぞいに合った。
影など関係無い、とでも言うかの様に、二者の戦いは勢いを増す。
「―――………邪、魔、臭あぁぁ―――い!!」
苛立つイブは魔力を纏わせた長い爪で影を切り裂いた。
五本の爪が真直ぐ垂直に振り下ろされた瞬間、黒い身体は細かく飛び散った。
イブは影を消すや否や、上空から飛び掛かって来た相手の爪を躱した。
容赦無い一撃は深く地面を抉り、もしこれが当たっていたらと考えると………意味も無く、イブは笑みが零れる。
砕けた大地の破片が飛び交う中、こちらを真直ぐ睨み付けて来る同じ獣の瞳。
………この醜い姿でいることに、憎い筈の獣をこうやって向き合うことに。
こいつは、リスト=サベスは…………。
…………迷いが、無くなった。
「――…そう、こなくっちゃ…!」
鋭利に尖った尻尾をグンッと伸ばし、リストの顔に振るった。
「―――!」
咄嗟に身体を退くと、その辺の剣よりも遥かに切れ味の良い刃が鼻先を掠めた。