亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
「―――あたしは人間が嫌い」
不意に、イブは二本足で立ち上がった。
無表情でリストを見据えて、足元の砕けた岩を後ろに向かって蹴り上げた。
一メートル大の岩は飛来し、飛び掛かろうとしていた大きな影に直撃した。菱形の目玉は潰れ、影はすぐに絶命した。
「――…人間なんか……大っ嫌い。………皮が捲れるまで叩くし…笑いながら煙草で目を焼いてくる……髪を掴んでそこら中引き摺り回す……岩に頭を叩き付ける……スプーンで無理矢理歯を抜いてくる…………指は折るし爪は剥がすし傷口に熱湯をかけるし滅多刺しにするし……………………………化け物よ。人間こそ、化け物だ!!化け物以下だ!!最低だ!!」
………まだ11歳の……幼い彼女が受けた数々の虐待。
それは卑劣で、残酷で、冷たくて………。
………とても、耐えられない。
「………」
リストは、小刻みに肩を震わせる少女を黙って見ていた。
「……でもね………………あたしね……………………………隊長は好きだよ。……………………隊長は嫌いな人間だけど、隊長は好き。隊長は………………………撫でてくれるもん。……………あたしのこと、イブって呼んで…撫でてくれるから………」
――…隊長は……。
………隊長は…たくさん教えてくれた。
…………痛い事と、悲しい事しか知らなかったあたしに。
………楽しい事や嬉しい事。
たくさん、たくさん。
あたしの知らない人間を。
「……………少しだけ………人間が好きになれた。……………あんたみたいに………変われたんだ…」