亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
まだ痛む身体を半ば引き摺る様に、俯いたまま歩いていると。
…………靴底に広がる真っ白な床が突然、石畳の道へと変わった。
一定の間隔で敷かれた四角い石畳。
間には手入れの行き届いた緑の芝生が見える。
………中庭の様だ。
広く丸い中庭だ。
中庭を突っ切る形で伸びた石畳の先には、また廊下が続いている。
……一面、色鮮やかな花が咲き乱れていた。
柱には複雑に絡まった細い蔦が伸び、小さな赤い花弁を散らしている。
ジョウロに溜まった水は涸れずに残っていて、花が並ぶ花壇には雑草など一歩も生えていない。
吹き抜けの天井からは、冷たい風が流れていた。
………六年も経っているのに。
………この城の内部は…時が止まっていたのでは?
そんな不思議な光景を目の当たりにしながら、ローアンは早々に中庭を突っ切ろうと足を早めた。
―――視界の隅に。
………黒いものが見えた。
咄嗟に身構え、腰から短剣を抜く。
………今のは?
風に靡く花の群れの奥で、真っ黒な物体が蠢いていた。
この暗がりでも、ちらちらと赤い眼球は見えた。
………影か………………こんな所まで……!
天井の吹き抜けから入って来たのだろうか。
城の扉は開いたままだから、影が入って来るのは充分考えられる事だが。
視線の先にいる影は、中庭の隅から動こうとしない。
辺りを窺うかの様に、菱形の赤い瞳をギョロギョロと忙しなく動かしている。
グルン……と目玉が裏返ったかと思うと……その焦点はローアンに定まった。