龍とわたしと裏庭で⑤【バレンタイン編】
家を出てバスに乗り込むと、先に乗っていた悟くんがわたしを呼ぶ。

「しづ姫、助けて」

バスに乗っているのは大多数がうちの学校の生徒なので、通り道を開けてくれた。

「おはよ。どうしたの? 痴漢にでもあった?」

「笑えない冗談はやめてよ。それより、この娘(こ)なんとかして」


へっ?


悟くんの横にいたのは――

「松本さん?」

わたしのクラスの軍曹――もとい、委員長の松本さんだ


「おはよう」

松本さんがきまり悪げに顔を上げた。


「おはよう。あれ? 松本さんちって反対方向じゃ……」

「うん。始発でこっちまで来たの」

「始発って……どうしたの?」

「長谷川から逃げてるんだってさ」


逃げてる?


「逃げてないわよ!」

松本さんが慌てて言う。

「ただちょっと、毎朝家の前で待たれるのが困るっていうか、何というか」


「ひょっとして、まだ仲直りしてなかったの?」

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