今夜、俺のトナリで眠りなよ
「どうだか」と優樹さんが、ぼそっと言ったのを私は聞き逃さなかった。

 自分が浮気をしているからって、私まで疑わないで欲しい。

 私は、私なりに頑張って妻として努力しているのに。

 優樹さんが新聞をソファの上に投げると、スリッパを鳴らしながら玄関へと向かった。

 私も優樹さんの後を追って、玄関に足を向ける。

「なんだ。兄貴もいたんだ」なんて、まるで誤解されるような発言して、一樹君が家の中に入ってきた。

「休日だよ。僕が家に居ちゃいけないのかい?」

 優樹さんがむすっとした表情で、一樹君に口を開く。

「別にぃ。いつも休日だって家に居たためしがないだろ。ああ、そっか。今日は秘書のあの子が、アレしてるんだっけ」

 優樹さんの目が鋭くなって、一樹君を一睨みした。

「なんのことだかさっぱりわからないな」

「社長業も板につくと、おとぼけも上手になるもんだ。あがらせてもらうよ」

 一樹君は悪びれた様子もなく、靴を脱ぐとズカズカと家の中に進入してきた。

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