今夜、俺のトナリで眠りなよ
「ここに今日から住む。大学の通学を考えると、ここから通うほうが断然楽だから」

「一人暮らしをすればいいじゃないか。何も僕の家に来る必要なんて……」

「その『一人暮らし』をあんたの母親が嫌がってんの。それに兄貴、俺を邪険に扱えると思ってるの?」

 一樹君がニヤッと笑うと、上着の裾をぺラッと捲ってわき腹を見せた。

 ちらっと古傷のようなものが顔を出すと、すぐに一樹君が裾を戻してしまう。

 優樹さんが、ゴホンと咳払いをすると「仕方ない」と呟いた。

「桜子、一樹の部屋を用意してやれ」

「あの、でも。どこに」

「僕の部屋の隣で構わない」

「わかりました」

 私はペコっと頭をさげると、一樹君の部屋を用意するために二階にあがった。
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