今夜、俺のトナリで眠りなよ
―一樹side―
「母さんが、一人暮らしを反対するとは思えない」

 桜子の姿が見えなくなると、兄貴が冷ややかな声で俺に言ってきた。

「むしろ家を出て行って欲しいと言わんばかりに、送り出すとでも言いたいわけ、か」

 俺はフッと笑みを浮かべて、居間のソファにどかっと座った。

 新聞が俺のケツの下に入る。ぐいっと新聞を引っ張りだすと、ぽいっと床に放り投げた。

「俺は目障りな存在だもんな。腹を痛めて産んだわけでもねえ。憎き愛人の子。親父の愛を一身に受けていた女の息子だからなあ。俺が家にいるだけでもあんたの母親は息が詰まるだろうよ」

「その性格が母さんを苦しめてる」

「性格じゃねえ。俺の存在自体が、邪魔なんだよ。だからって俺を一人暮らしなんてさせて、変な気を起こさせたくねえのも事実だろ。あんたの立場を揺るがすような立場になられても、困るからなあ」

「だからって僕の家に寄こす訳がない」

 兄貴が、ダイニングの椅子にちょこんと座る。
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