今夜、俺のトナリで眠りなよ
「考える必要なんてない。だって一つしかないんだから」

 一樹君の端正な顔が近づいてくると、私は力強く瞼を閉じて、口を手で覆った。

 待って。止めて。お願い。

 私は既婚者よ。

 いえ、もし既婚者っていうのが止める理由にならないんだったら……

 考えて、私。

 きっと一樹君を止められる理由が必ずあるはず。

「お願い。止めて。私……処女なの」

 口を手で覆ったまま、私は言葉を発する。

 違う。そんなことを言いたいんじゃない。そうじゃなくて。

 パニックになった頭では、グルグルとわけのわからない理由ばかりが私の脳内を駆け巡っている。

 どしよう。もっと良い理由があるはずなのに。

 私はぎゅっと瞼を閉じたまま、頭を振った。

『くくくっ』と失笑しているのが聞こえて、私は恐る恐る目を開けた。

 一樹君が私の上に跨ったまま、肩を揺らして笑いを堪えていた。

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