今夜、俺のトナリで眠りなよ
―一樹side―
 あ、あぶねえ。

 俺は自分の部屋に入って、ドアに背中を預けた。

 思わず、「別れちまえよ」って言いそうになった。

 兄貴なんかより、俺にしておけ…って口を滑りそうになった。

 そんなことを言っても、桜子を困らせてしまうだけだってわかっているのに。

『私にも愛人を作れって?』

 桜子の言葉が、耳の中で蘇る。

 いいよ。俺が愛人になってやる。

 兄貴より、桜子を愛してやれる自信はある。

 駄目だろ、そんなこと言っちゃあ。

 桜子は真面目で、曲がったことをするような女じゃねえ。

 俺はコーラを口にする。しゅわっと炭酸が、口内を刺激した。

 そういえば、桜子に背中の傷を見られちまったな。

 見せたくなかったのに。

 グロくて、びっくりしただろうなあ。

『お前なんか、父さんの子じゃない』

 兄貴の声が思い出される。

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