今夜、俺のトナリで眠りなよ
「ええ」と言うと、谷島さんが一歩前に出て、「社長の弟さんが同居していらっしゃると聞きました。隣で寝ている弟さんが気になって、夜も盛り上がれないとか」と小さな声で囁いた。

 私は首を横に振ると、カードキーを押し返した。

「谷島さん、そのカードキーを使って、さっきまで身に着けていたダイヤのネックレスを取りに行ったほうがいいみたい。首元が寂しくなってる」

 谷島さんが、目を大きく見開くと、首もとに手をあてた。

 しまった……と言わんばかりの表情をして、身体が固まってしまった谷島さんの横を私は通り過ぎた。

「格好良い台詞だね」

 私の隣に立った一樹君が、クスクスと笑いながら口にした。

「か、一樹君? さっきは……」

 一樹君が首を横に振る。

 質問しちゃ駄目だよ、と言わんばかりの表情をしているから、私は口を閉じた。

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