今夜、俺のトナリで眠りなよ
「帰るなら、送るよ。今日は一滴も酒を飲んでないから」

 一樹君が車のキーを、ポケットからスッと出して見せる。

「まだ大丈夫。帰らない。妻として、最後までいなくちゃ」

「旦那は、ホテルの部屋に逃げちゃったしね」

「そういうこと」

 私がにっこりと笑うと、一樹君も微笑んだ。

「ねえ。一樹君、優樹さんに何か言った?」

「何かって? そりゃ、兄弟だからそれなりに会話もするけど」

「優樹さんが、一樹君が何かを企んでるんじゃないかって、谷島さんに話しているのを聞いちゃったから。聞こえちゃったっていうか」

 一樹君がくくくっと肩を震わせて笑った。

「前にも言ったでしょ。愚弟が兄嫁を口説いているって」

「あれは、本気じゃないって……」
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