ふわふわ
「楠くん」
 名前をこうして呼んだのは、これが初めてだった。普段は、タクの陰にいて、特に名前を呼ぶ場面がなかったのだ。
 「くん」づけで名前を呼んだら、なんだか私の同級生みたいな、懐かしい気持ちになった。

「のりちゃん」
 彼は、私に手を振りながら近づいてきた。「偶然だね。こんなとこで会うの。タクと待ち合わせ?」
「楠くんは?」
 質問に答えないで、逆に質問してみた。
「おれ? おれは一人でブラブラ。もう帰ろうかなっと思ってたよ」
「このあと、なにか、予定……、あ、彼女?」
「何もないよ。どうしたのさ」

「実は、タクが今日来れないって……」
 勇気を出して次の言葉を告げた。「もし、イヤじゃなかったら、一緒にゴハン食べに行かない?」

 断れないような言い方をしたのは私。

 とっさに、携帯の電源を切った。

「初雪デート」……。
 さっき浮かんだ、この言葉が頭から離れなかった。
< 4 / 9 >

この作品をシェア

pagetop