ふわふわ
 楠くんは、
「じゃあ、行きたい店があるんだけど」
 と言って、この近くのイタリアンのお店に連れていってくれた。リクエストしていないのに。
 タクとじゃいつも焼き鳥屋だもんな。知らず知らずのうちに比べている自分がいた。

「すごい、私の好みとぴったし」
 ワインで乾杯した。向かいの席、グラスの向こうに彼が座っているなんて、まだ信じられない光景だった。

「帰ってパスタでも茹でようかと思ってたから」
「料理、するんだ? いっがいー」

 こうして話してみると、好みが似ていたり、考え方が似ていたりして、酔っていくにつれて、私の心はだんだん傾いていった。
 確か、飲めないはずの彼が、今日はいっぱい飲んでいる。
 少し喋るたびに、少し笑顔になって、その表情に引き込まれる。
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