ふわふわ
 話題は、なんとなく、お互いの彼氏彼女の話はなし。気になってないはずはないのに。でも、口に出してしまったら、今夜の魔法が終わってしまうような気がして、私からは言えなかった。彼も、同じように感じているのかな……。
 その気まずさを忘れていられる間は、初めてのデートみたいだ、と思った。私がもっと経験豊富だったら、もっと、違ったアプローチができたんだろうか。

 テーブルの上に無造作に置かれた彼の手。
 ほっそりとしているんだけれど、とても大きい手。触りたいな。触ってほしいな……。

 食事が終わったころ、
「こんなふうに二人で会った夢を見たことがあるんだぁ」
 と言ってしまった。酔ったせいもある。言いたい衝動を抑えることができなかった。むしろ、流れに身を任せてみたかった。
「夢見てから、いつかこんなふうに会ってみたいなって思ってたの」
 彼は、何も言わなかった。
 酔った勢い、本気になんてしないだろうな……。

 夢に見たのは本当。
 ある飲み会のあとで、つまり、楠くんに会ったある夜、タクの部屋で一緒に寝ているという状況で、夢を見て目が覚めたら横にタクがいた、という状況で。
 それ以来、忘れられなくなってしまったのも本当。今、気づいた。

 外に出たら、やっぱり雪が降っている。
 ふわふわの雪。
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