会いたい
「おっと。教室行かないと。じゃ、また詳しい話聞かせてよ」
1年生の学級担任である数学教師の彼女は、職場ではいい先輩だ。
専門職には何かとマニアックな人間が多く、正直、教師に向いていないと思われる人物も多くいる。
地方であればあるほど、それは顕著だ。
そんな中で、彼女は数少ない有能な教師だ。
教え方もうまいし、丁寧だ。中学時代、この人に数学を習っていたら、ここまで数学に苦手意識をもたなかっただろうかと思う。
彼女と話すのは嫌いではない。
でも、よりにもよってなぜ、昨日の件を同じ職場の彼女に見られてしまったのだろう。
他にも誰かに見られたのだろうか。
ホテルだから、生徒に会うはずはないが、父兄がいたとしたら?
「――」
大きく息をつくと、私は職員室に戻った。職員朝会前のコーヒーの準備をするために。
憂鬱な1日の始まりだった。