ありのままの、あなたが欲しい。
「あっ、ショージ!」



保育園へ行く準備をしたマナトくんが、俺を見て指をさす。


それに「おー、おはよう」と呑気に応えていると、藤咲さんが俺の手を握ったままマナトくんに問いかけた。



「マナ!まだいる!?」


「うん。あそこ」



マナトくんは俺を差していた指を壁の上の方に移動させる。


それを目で追うと、壁に止まった虫が一匹。



「…なんだ、蛾か」



何かと思ったら、今日の“用件”は虫の退治だったのか…。



「早くどっかやってください!!私虫ダメなの!世界で一番嫌いなの!!」



呆れて脱力していると、藤咲さんは俺の背に回り込んで隠れるように身を潜める。


それが子供みたいで可愛らしくて、俺は密かに笑いを漏らした。


< 147 / 395 >

この作品をシェア

pagetop