死が二人を分かつまで
手にはボストンバッグを一つだけ提げていた。


「お待たせしました」


「荷物、それだけか?」

「もともと、ほとんどの荷物はアパートの方にありますから」


津田の問い掛けに、さとしは再び淋しそうに微笑んだ。


さとしが居間に顔を出すと、伯父達は硬い表情で座り込んでいた。


「部屋に置いてある他の荷物は、処分して下さってかまいません」

「ああ、そうするよ」


さとしの言葉に、広は視線を逸らしたまま冷たく返答する。


「今までありがとうございました。いつか絶対、ご恩返しさせていただきます」

「そんなものはいらん」

「それじゃ、行きます」


さとしは少しためらってから、ずっと昔から言ってみたかった言葉を呟いた。


「さようなら。……お父さん、お母さん」


思いがけないその言葉に、広と知子は驚いた様子でさとしを見上げる。


津田に促され、さとしが廊下を進み、玄関で靴を履き、ドアを開けて出て行くまで、広と知子はその場で固まっていた。


しばらくして、広は憎々しげに呟く。
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