死が二人を分かつまで
小さい時はお互いの部屋をよく行き来していたが、大きくなるにつれてそれは減り、小夜子が家を出てから、そしてさとしがこの家に来てその部屋を使うようになってからも、広は一度も足を踏み入れた事はなかった。


かたくなに、それを拒んでいた。

何故そんな感情を抱くのか、広は自分自身分からなかったが、今、この瞬間にその謎が解けたような気がした。


部屋の中央に正座し、知子は室内をぼんやりと眺めている。


広もその傍らに座り込んだ。


「キャッチボール、とうとうしてあげませんでしたね……」


知子の言葉に、広は遠い日の、さとしの小さな背中を思い出した。


「あなたが気まぐれに買ってあげたおもちゃや本を、嬉しそうにいつまでも眺めて…。今でもさとしちゃん、それを大切に取ってあるんですよ。一人暮しのアパートに、飾ってあるんです。あなたは行った事がないから知らないでしょうけど」


何かを言おうとして、しかし広は、諦めたようにうなだれた。


そして弱々しい声で、ポツリと呟く。


「さとしが真っ直ぐで良い子だと?それはそうだ。あいつの息子なんだからな」

「え?」

「俺が言ったんだ」
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