死が二人を分かつまで
「うん。ちょうど昼休みだから」


さとしもそれを見越してこのタイミングで電話をかけてきたのに違いない。


『この前僕が言ったこと、覚えていらっしゃいますか?母の思い出話を聞かせていただきたいって……』

「うん」

『ご迷惑でなければ、今夜、よろしいでしょうか?』

「え?今夜?」

『はい』


随分急な話だな、と進藤は内心驚いた。


しかし、もしかしたら今までずっと遠慮していて、とうとうその限界を越えて、縋る思いで電話をかけてきたのかもしれない。


4歳で死に別れた母親に対する慕情。

さとしの心中を考えると、とてもじゃないが無下に断る事などできなかった。


むしろ、自分からもっと早く言い出すべきであったと進藤は反省した。


キリの良いところまで進めておきたい仕事はあったが、無理して残業する程でもない。


個人的に早めに終わらせたいと考えていただけで、時間的余裕はまだある。


進藤は瞬時に判断を下した。


「分かった。じゃあ、何時に待ち合わせしようか?」


19時に、いつも二人が降り立つ駅の改札口付近で、という事になった。
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