死が二人を分かつまで
さとしは目を見開き、焦ったように言葉を繋いだ。


「お母さん、お水きらいなの…」

「え?ああ、小夜ちゃんは小さい時に川で溺れかけたらしいからね」


女性がウンウンと頷いた。


「何でも一生懸命やる子だったけど、水泳だけはダメだったんだよね」


「大丈夫よ、さとしちゃん。ちゃんとお船で渡るんだから」


別の、小夜子と同年代の女性がなだめるように言葉を発した。


「でも…」


さとしはますます不安げな顔付きになる。


脳裏に、ある記憶が蘇っていたからだ。


切り詰めた生活で、遠方への旅行はした事がなかったが、その代わり、近場の動物園や遊園地などには定期的に弁当を持って遊びに行っていた。


その中に、白鳥の形をしたボートに乗れる池があったのだが、さとしが乗りたいとねだっても、小夜子は「お母さんあれだけはダメなの。ごめんね」とかたくなに拒んでいた。


とても申し訳なさそうな、泣き出しそうな表情で。


さとしはただ小夜子と出掛けられるだけでも楽しかったし、小夜子を困らせたり悲しませたりしたくなかったので、それ以上ボート遊びには固執しなかったが。
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