死が二人を分かつまで
「主人は明日…じゃなくて、もう今日ですね。仕事がありますので」


「お先に失礼する」


言いながら、ドアへと歩を進める広に向かって、さとしはためらいがちに声をかけた。


「伯父さん…。ご迷惑かけて、すみませんでした…」

「本当にな」


ドアの前で立ち止まり、あちら側に視線を向けたまま、広は不機嫌そうに答えた。


「心臓が止まるかと思った」


その言葉の意味を捉らえそこねて、さとしは一瞬不思議そうな表情になる。


進藤達も思わず広を見た。


「俺の寿命を縮めたくなければ、もっとしっかり、地に足を着けて生きていけ」


そのまま広は足早に去って行く。


誰もが無言だった。


しかし、病室内には、穏やかな空気が流れていた。


ベッドに近づき、傍のパイプ椅子に腰掛けた知子に向けて、さとしは呟く。


「何だか伯父さん、雰囲気が変わりましたね……」


「色々あったのよ、この数週間の間に」


知子は穏やかに微笑んだ。


「でもね、表に出て来たのはつい最近でも、あの人の心の中には、ずっと昔からああいう思いがあったはず」
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