死が二人を分かつまで
津田は、一言一言、噛み締めるように言葉を紡ぐ。


「だけど、不測の事態が起きた」


「……さとしの記憶喪失か?」


「ああ」


津田は固い表情で頷く。


「お前が父親だと名乗れば、それが糸口となって、さとしの記憶が呼び起こされる可能性は高くなるだろう。だけど、さとしの精神は、今とても安定している。わざわざ真実を明らかにして苦しめる必要はあるだろうか?」


「しかし……」


「この事実は俺達しか知らない。調査した者はプロだ。他言される心配はない。伯父夫婦も、今更父親が誰か調べるつもりは無いみたいだしな」


津田は続けた。


「さとしにとって、お前の存在はかなり大きい筈だ。現時点での記憶では、まだ最近知り合ったばかりの、だけど不思議と気の合う、『少し年の離れた友人』に過ぎないが、あの子の本能はあんたが父親だということを認識しているんだから」


いや。


もしかしたら、出会ったその瞬間から、お互いの細胞は気付き、呼び合っていたのかもしれないが。


津田は心の中だけで呟いた。


「もちろん、それはあんたが自分の思いを抑える事ができるなら、の話だけど」
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