死が二人を分かつまで
ついでに周りにいた何人かも振り向いたが、進藤がその人物に近づいたので、自分には関係ないと判断したように歩いて行く。


「こんばんは。俺のこと覚えてる?」

「あ、こんばんは」


この前広場で歌っていた若者である。


笑顔で挨拶を返してきた。


今日はギターは持っておらず、代わりに、重そうなリュックを背負っている。


「学校の帰り?」

「えっと、学校も行きましたけど、家庭教師のバイトをしてるんで、その帰りです」

「そうなんだ」


いかにも大学生らしい、爽やかなバイトだ。


進藤は昔の自分と比べて思わず苦笑した。


また会うとは奇遇だな、と一瞬思ったが、彼はこの前徒歩で帰宅していた。


進藤同様、家はこの近辺にあるということだ。


ならばこの駅を利用するのは当然で、顔を合わせるのはさほど不思議なことではない。


気付かなかっただけで、今までにも何度もすれ違っていたかもしれない。


歌っていた時の彼には強いオーラがあったが、普段は普通の若者だった。


「あ、とりあえず歩こうか」

「はい」


進藤の言葉に彼は素直に従った。


しばらく無言のまま歩を進める。
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