死が二人を分かつまで
しかし、白Tシャツの上に灰色のパーカーを羽織り、下はベージュのチノパンという服装。
髪型は何のヘアアレンジもしていないストレートの短髪で、色もナチュラルな黒髪だった。


お世辞にも流行を追い掛けているとは言えず、自分の容姿にはかなり無頓着な印象を受けた。


そんな事を考えている間に気がつけば、その場には若者と進藤だけになっていた。


「あの……なにか?」


じっと立ち尽くす男を訝しく思ったのか、彼が荷物を手にしつつ、おずおずと声を掛けてきた。


「あ、いや」


進藤は慌ててその場を去ろうと思ったが、体はなぜか動かず……。


「若いのに、渋い歌知ってるんだね」


そのまま会話を続けていた。


「小さいころ、母がよく歌っていたんです」


照れ臭そうに、おっとりとした口調で彼が答える。


「お母さんがね、なるほど」


「あ、でも、その当時は曲名までは把握してなかったんですけど」


若者は慌てて自分の言葉に補足した。


「少し大きくなってから『ああ、これがそうだったのか』って認識したんです。それに古い曲だけど根強い人気があって、いまだに耳にしますから」
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