死が二人を分かつまで
それまでは挨拶程度のやり取りしか交わしていなかったが、開店前や勤務中、仕事に差し支えが出ない範囲で会話を交わすようになった。


職場恋愛に発展されると煩わしいとでも思ったのか、マスターは最初の頃こそ目を光らせていたが、姉弟のような二人のやり取りに安心したのか徐々に口を挟んでくる事はなくなった。


「22歳で上京して、バイトしながらオーディションを受けて、そんな生活を1年近くしてたかな」


ある日、小夜子は自分の身の上話を始めた。


「何度目かに受けたオーディションでね、『今回の選考にはもれたけど、別の形でデビューしませんか?』なんて言われて、喜び勇んでその人に会いに行ったの。でも、待ち合わせ場所がホテルの喫茶店で、そのまま部屋に連れ込まれそうになっちゃって……」

「えぇ!?」


進藤は仰天した。


業界の裏話として耳にしたことはあったが、そんなおぞましい事が実際に行われているとは。


「私もいけなかったのよね。そんな場所にノコノコ出向いて。でももちろん、そいつのこと蹴飛ばして逃げてやったわよ」


小夜子は悪戯っぽく笑う。
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