藁半紙の原稿

明かずの…

「即ち、その際に問われるのはそう言った事ではないのだよ」

「そうですね」







私が本を読ませてもらうようになってから、霎介さんは私が読んだ作品について談議をかもすことが増え、私もこうして作品についての充実した考察を行えるようになった。


しかし霎介さんはその広い知識ゆえかすぐ話が脱線し本筋を見失ってしまう。



「さて、話を戻そう。
何処まで話したかな?」

「少女が男の正体に気付くところですよ」


何処まで話したか、彼が聞いて、私が答える。


「そうだそうだ」


私が答えると彼は嬉しそうに微笑む。
決まってこうなるのだった。

それから私のいれたお茶を一口含むと、また話し出す。




使用人として仕事をする傍ら、こうして私は霎介さんと他では味わえない時間を過ごした。

恵まれたものだ。
近所や何も知らぬ町の人などから彼を変人扱いされ、そこで働いている私を哀れまれるのは、今の私には腹の立つ事でしかない。







反論しようとも思ったが、私のせいで更に彼の評判が悪くなることは憚られた。
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