恋色カフェ
怠くボールペンを拾い上げ、体勢を元に戻すと、突然、腕が目の前に現れ、そのまま後ろから抱きしめられた。
「きゃ……っ」
椅子を引いた音に邪魔されたのか。近づいてきていたことに気づかず、つい大きな声を上げてしまう。
「しっ、静かに」
「だ……って」
「いいから」
ぎゅう、と腕に力がこめられる。店長の顔が近い。彼の髪からは煙草の苦い香りと、カレーの匂い。
「仕事中、ですよ、それに誰か来たら……」
「来ないよ、多分」
「多分、って、」
「結構混んで来てたからね。事務所に来る余裕はないと思う」
彗、と耳許で囁かれると、何もかも、どうでもいいような気になってしまうから、困る。
ううん──、本当は困ってなんかないって、気づいてる。