恋色カフェ


私は決まりの悪さに、コーヒーへと手を伸ばす。



「で、後で訊いたら、煕さんは私が結婚を既に承諾したもんだと思ってたらしくて。私の話を聞いて、愕然としてたわ」

「結婚前に、話はしなかったんですか?」

「煕さんが承諾したら、その場でお父様に婚姻届を書けって言われちゃったらしいの。話しようにも、彼のご両親と煕さんがうちに来た時には、半分記入された婚姻届付きだったんだから。

しかも結婚の話を先に出したのはうちの父だしね。異論なんかある筈ないし」

「でもそんな、急がなくても……」

「煕さんのお父様も、思惑があったのよ。うちの会社を自分とこの傘下に収めて、組織を拡大させようとね。元々、モリヤコーポレーションには医療部門が無かったし」



聞けば聞く程、遠い世界の話のような気がする。

そもそも、離婚に至った原因は何だったのだろう。その、問答無用の結婚のせいだったんだろうか。



「……彗ちゃんだから、ぶっちゃけて話すけど、その当時本当は私、好きな人はいたの」

「そう、なんですか」

「でも、父の前には絶対に連れて行けない人で……」


今まで明るく話していた理英さんが、初めて表情を曇らせた。


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