恋色カフェ
「こんなところまで、連れて来て」
古めかしいジャズが、邪魔にならない程の音量で流れている店内で、声を荒げるのはさすがにまずいと思ったのか。少し冷静さを取り戻した顔で、万由さんはただ不機嫌にそう言った。
「いつまでも路上で言い合っている訳にはいかないと思って」
怒りを助長させることは言っていないと思うのに。何故か、彼女は思いきり私を睨みつける。
「私はアンタと話すことなんてないわよ」
ただならぬ気配を察したのか。それとももう出勤の時間なのか。ガタリと音がした方を向けば、サラリーマンが立ち上がっていた。少し、心苦しい。
「万由さんが無くても、私にはあるの」
私はサラリーマンが会計しているカウンターの方を窺いながら、努めて冷静に返す。
万由さんは私が強気に出たことが意外だったのか、虚を衝かれたといった顔になった。
「さっきの。あれ、どういうこと?」
運ばれて来たコーヒーを一口飲んでから、そう切り出した。どうして知っていると決めつけるのか。私が彼女の無断欠勤の理由なんて、知る由もないというのに。