恋色カフェ
「お疲れ」
扉を開けると、ソファーにどかりと腰掛けた店長がこちらを見ていた。いつものように紫煙を燻らせながら。
事務所の様子を窺った時、あまりに静かで帰ってしまったかと思ったのに。少しだけ油断した心臓が、どくりと跳ねる。
「……お疲れ様です」
目を合わせていられず、俯きながら背を向け、タイムカードを押す。
出来るなら、このまま帰ってしまいたい、けど……。
――逃げる訳にはいかない。
私は意を決して、店長の方を振り返った。
「あの……」
「あのさ」
声が、重なる。私は自分の言葉をひとまず飲み込み、店長に先を促した。
「高宮さんは、本当にこれで良かったの?」
それが「万由さんを辞めさせないで」と私が言ったことに対する問い掛けだということは、十分、わかっていた。
私は敢えてわからないふりをして、はぐらかす。
「何が、ですか」
「土屋のこと。俺は、辞めてもらってもいいと思ってたんだけど」