恋色カフェ
店長は、ちょっと冷えた、と足元に手を伸ばし、さっき私が畳んだシャツを掴んで、袖を通した。
「もう傷つけない、と思えば、ちゃんと人を思いやることが出来るだろうし」
俺は出来てないけどね、と言って自嘲気味に笑う。
「でも、コーヒーは美味しく淹れることが出来る」
「……コーヒーは、関係ないんじゃないですか?」
「何言ってんの。思いやりが無ければ、本当に美味しいコーヒーは淹れられないんだよ」
店長はベッドから足を下ろして、制服を兼ねた、いつもの黒い細身のパンツを素早く履くと立ち上がった。
「俺の思いやりたっぷりのコーヒー、飲みたくない?」
丁度、コーヒーが飲みたいと思ったところだ。
「あ……いただきます」
了解、と言って、店長はボタンの留まっていないシャツを翻して、キッチンの方へと消えていった。
残された私は、ベッドの上にパタリと横になる。
店長の、匂い。半分以上は、苦い煙草の、匂い。
――ああ、そうか。
ふいにコーヒーが飲みたくなったのは。
今ここに、もう一つ、コーヒーの香りが揃っていて欲しかったからだ。