シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「今年のガーデンパーティはどうなるんだろうな?」

若い使用人が作業の手を止め、薔薇園を見やった。

先日の嵐で、満開も間近に咲き誇っていた薔薇は茎が折れ曲がり、アーチに蔦っていた花もほとんどが散ってしまっていた。

整然と手入れされていたこの城の庭も、落雷にあった木は数本切り倒され、綺麗だった花壇も全ての花が抜き取られてしまって、むき出しの土のみになっていた。

これではとても客人を迎えられない。


「さぁな、どうするかは国王様がお決めになることだ。そんなことより―――俺が気になるのは・・・あの娘のことだ」

治りかけた掌の傷を見ながら、夢見るような瞳でため息をつく使用人。

あの喧騒渦巻く医務室で、一人凛としていた彼女。

青ざめてはいたが、あまりにも美しくて清楚な姿に、その場にいた者すべてが凍りついたように静まり返った。

一人ずつ丁寧に話しかけていくのを見て、自分の番が来るのを楽しみに、怪我の痛みに堪えながらいくらでも待つことができた。

男女を問わず、そう思った者が多かっただろう。

一体あの娘は誰なのか・・・あれから何度もメイド部屋に訪ねてるが、いつも姿が無い。

何処の配属かも分からない・・・。


「もう一度会いたい・・・」

傷を見ながら、使用人は熱い吐息を漏らした。

「お前もか・・・?その娘は一体―――」

「お前達!何をさぼっているんだ!?そっちのお前、あっちで呼んでいたぞ。ほらお前も!仕事仕事!」

掌を見つめていた使用人は、慌てて年配の使用人が指さす方向を見た。

そこには倒木の傍で、先輩が腰に手を当てて怒り顔をこちらに向けて立っている。

「いけねっ」と呟き、焦った顔で駆けていく使用人。

もう一人も身をすくめて謝った後、木片を籠に入れる作業に戻った。



「今年は、ガーデンパーティーは出来そうもないな・・・」

執務室の窓際で、庭を眺めながらパトリックが残念そうに呟いた。


庭では使用人達が、片付けと補修作業をしている。

あの何も植えられていない花壇も、明日には取り寄せた花が植えられる。

これで庭の体裁はすぐに整うだろうが、薔薇園はそうもいかない。

何日も丹精込めて世話をしないと、あれだけの素晴らしい花を咲かせることはできない。

無くなったからと言って、すぐに替わりを用意出来るものではない。

毎日欠かさず世話をしてきたモルトも、さぞ悔しいことだろう・・・。


彼女にも満開の美しい薔薇園を見せてやりたかったな・・・。

エミリーの柔らかな微笑みを思い浮かべ、パトリックは切なそうにため息を吐いた。
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