シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「アラン様、医官が診察に参りました」

警備兵に取り次がれ、執務室にフランクが定刻の診察にやってきた。


「王子様、具合はいかがですか?」

床に鞄を置きながら問診を始めるフランク。

「あぁ、大分良い」

いつものように腕を差し出し、視線は書類に落としたまま答えるアラン。


あの日から数日間、同じ光景が執務室の中で繰り広げられていた。

しかし、今日はなんだかいつもと違う。

腕の包帯を取る器用な手が、今日はもたもたしているように見える。

珍しく緊張しているのか・・・?まさか、フランクに限って・・・気のせいだろう

パトリックは窓際にもたれながら、フランクの様子を興味深げに観察していた。


暫くすると、フランクが何か意を決したように息を大きく吸い込み、遠慮がちに声を出した。


「あー・・・王子様。本日は、その、お願いがございまして・・・きっと、駄目だと仰せになるでしょうが・・・」

眼鏡の奥に緊張の色を浮かべながら発する声は、僅かに震えていた。

言い淀むフランクの様子に、書類から目を外し、訝しげな顔を向けるアラン。

こんなに緊張しているフランクの顔は初めて見る。


「何だ?はっきりと申してみよ」

伺うような表情のアランに、伏せがちだった顔を上げたフランクは、眼鏡の奥を真摯な色に染めた。


「はい。実は、彼女を―――エミリーさんを、暫く医務室にお借りしたいのです」

手に持っていた書類を机の上にバサッと置くと、治療の手を止めて頭を下げているフランクをじっと見据えた。

「・・・エミリーはメイドではない」

「重々承知しております」

「彼女が医務室の手伝いをしたいと、申しておるのか?」

「違います。私の、希望でございます」

フランクは、ここまでずっと頭を下げたままだ。

「彼女はたまにメイドの服を着ているが、それは書籍室の清掃のためだ。彼女の強い希望で清掃の仕事を許している。その他は、何もしないで欲しいと、強く申してある」

少しずれた眼鏡を直しながら顔を上げ、フランクは言葉を強めた。

「しかし、この先アラン様が正室をお取りになれば、城を出ることになるやもしれません。今のうちからいろんな仕事を―――」

「今、何と申した!?」

フランクの言葉を遮り、静かに放たれる冷たい威厳を含んだ言葉。

見据える瞳に冷たい影が宿り始める・・・フランクの額に汗が滲む


様子を静観していたパトリック、様子があらぬ方向に向かいそうな状況に、焦りの表情を浮かべた。

「アラン、口をはさんで申し訳ないが。君が、彼女を保護してはいるが、実際君のものでは、無い。これだけは確かなことだ。この件は、彼女にどうしたいか意思を確認するべきだと思うが」


アランはパトリックを暫く見据えた後、苦しげに眉を寄せ、瞳を閉じた・・・。


「後に、連絡する」
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