シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「エミリー様・・・エミリー様」

後ろにいるウォルターが小声で呼びかけて来た。

振り返ると、険しい顔で順番を待っている男を睨みつけている。

「あそこに並んでいる兵士。あの兵士にはお気を付け下さい。なんだか態度がおかしい」

―――あれは、あの時の薔薇園の・・・。

腕を掴んで離してくれなかった人・・・あの時の嫌な恐怖が蘇ってくる。

湧きあがる嫌悪感に、身体が自然に後退る。

「ご安心ください。私が必ずお守り致します。指一本触れさせません」


健康観察にエミリー様が居られることを知った連中が、色めき立っているのを知ったのは昨日だ。

執務室に困惑顔のフランクが訴えてきたためだ。

アラン様は、手伝いを辞めさせようと仰せになったが、最終的にはパトリック様の提案の”護衛をつける”ということに収まった。

エミリー様が心おきなく仕事ができるよう、守りたい。

そう思って私は、自分からこの仕事に志願した。

アラン様は驚かれていたが、塔警備の責任者として、エミリー様の護衛の責任者として、これは当たり前のことだ。

プレゼントを抱えてくる連中は、私を訝しげに眺めるが、あからさまに無視するように視線を外す。

昨日すでに受け取ってしまっていた贈り物には、案の定リングが入っていた。

私が処分するからと、預かっているが、その数が多いことに改めて驚いてしまう。



「お疲れ様。あなたのおかげで、気難しい人たちの診断がスムーズに進んでいきます。本当に助かります。すみませんが、明日もお願いします。あ、ウォルターも、お疲れさまでした」

ニッコリ微笑むと、フランクは聴診器を首から外した。

「あの、本当にこれでスムーズなんですか?こんな・・・」

「何言ってるんですか。いつもはこんなに早く済みません。こんなのは気にしなくていいんですよ」

フランクは部屋の中の花の山を見て笑った。


「でも、ウォルターさんは、忙しいのでしょう?わたしがしっかりしていないから、こんなことに付き合わせてしまって、すみません」

ふわふわのブロンドの髪を揺らし、申し訳なさそうに頭を下げるエミリー様。

「とんでもありません。お守りするのが、私の勤めですから」

今まで警護のために険しくしていた表情が、みるみる緩んでいくのが自分でもわかる。

この方は人を和ませる力を持っている。


・・・アラン様を見ていれば分かる。

この方を見つめる表情は、いつもとても柔らかくて、普段の冷たい威厳の欠片も見られない。

今度アラン様が制御不能になった時に、ご足労願おうか・・・。

冗談混じりの考えに自分でも可笑しくなり、微笑みが漏れるウォルター。


「ウォルター、ちょっと此方に・・・エミリーさん、少しお待ちください」
< 112 / 458 >

この作品をシェア

pagetop