シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「サム、身体に傷をつけていないだろうな?」

男は嬉しそうに顔を綻ばせ、荒れた屋敷の中で何度も確認した。

「はい。言われた通り、傷一つ付けておりません」

サムは攫ってきたエミリーの身体を、そっとベッドの上に横たえると、口に当てていた布を取った。

そして乱れた髪を丁寧に整え、布団をそっと被せた。

馬に乗り込む際に、暴れて落ちないようかがせた薬のおかげで、すやすやとよく眠っている。


こんな出会いでなければ良かったのに・・・。

寝顔を見つめながら、サムは哀しそうに瞳を伏せた。


「明日にはあの方がいらっしゃる。きっと、お褒めの言葉を頂けるだろう。しかし・・・見れば見るほど美しいな」

男は、じっとりとした眼差しを向け、被せてある布団を乱暴に剥いだ。

ねっとりとした視線が身体を舐めまわすように見つめる・・・。

透けるような白い肌・・・ふっくらとした唇・・・華奢だが、女らしい丸みもある身体つき・・・。

男は唇をペロッとなめ回すと、手を胸元に伸ばした―――


「―――私が、見張っておりますので、どうぞあなたはお戻りください」

身体に触れそうな腕をガシッと掴み、男を睨みつけるサム。

「私は―――チッ!・・・こんなときだけ・・・後を頼んだぞ」

悔しそうに顔を歪め、言い捨てると、足早に男は部屋から出ていった。


サムは布団をそっと被せ直すと、ベッドの脇の椅子に腰かけた。

あの方は、この娘をどうするつもりなのだろう。

当初は知らなかったことだが、この娘は異国から来たという・・・。

アランの塔に手厚く守られていて、今までなかなか手を出すことが出来なかった。

塔の傍にある木を伝って、部屋に侵入して攫おうと考えていたが、思わぬところで隙ができた。


異国出身でありながら、この美しさ。

確かに珍しくて、傍に置きたくなるかもしれん。

金持ち連中が喜んで金を出しそうではある。

先で大切にされるといいが・・・。


明日には引き渡し、この国での仕事はやっと終わりを告げる。

荒れた屋敷の中、誰もこんなところに人がいるとは思わないだろう。

普通なら、見つかるはずもない。

がしかし、今回は仲間が一人捕まってしまった。

今までいろんな仕事を受けてきたが、さすがに、潔癖の守りを誇る城の警備。


無傷で終えることが出来なかった。


彼が口を割らなければいいが・・・。
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