シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「ここで待て。目隠しを取るが、逃げようなんて考えないことだ」

低い男の声が聞こえる。

目を覆っていた布が取られ、腕の拘束も解かれた。

恐る恐る目を開けると、豪華な造りの部屋の中に居ることが分かった。

目の前には、黒いマントを着た男。

部屋の扉の前には、武装した男が一人立っていた。

窓には鉄格子が嵌められていて、どう贔屓目に考えても、とても逃げられそうにない。

目隠しをされたまま、二人がかりで身支度を整えられた姿は、綺麗なドレスを身に付け、髪も丁寧に結い上げられていた。

「お見えです」

短い言葉とともに扉が開き、入ってきたのは、身なりの良い若い男と年配の男性・・・。

「これは・・・」

若い男が此方を見て、目を細めて微笑んだ。

つかつかと傍に寄って来ると、白く細い腕を掴み、アメジストの瞳を見つめた。

「離して下さい!」

男に向かって強めに言っても、当然のように、全く怯む様子がない。


「バトラー、例のものを」

顔をじっと見つめたまま、年配の男に何やら命じている。

腕を掴むこの手を、何とか振りほどこうにも、力が強くてビクともしない。

年配の男が、小さなクッションの上に乗せた物を、若い男に差し出した。

恭しく差し出されたそれは、とても豪華な装飾を施したリング。


すると、若い男は顔を手の甲に近付けると、唇を落とした。

「なっ・・・何を・・・!?」

驚きの声を無視し、その綺麗なリングを細い手首に嵌めた。

そして、座っていた身体をサッと抱き上げると

「気が変わった。このまま屋敷に連れていく。バトラー、お前は後から参れ」

そう言うと、つかつかと部屋を出て外に向かって行く。


「逃げようなんて思わないことだ。あなたは、すでに私のものだからな」

微笑みながら言うと、抱えたまま馬車に乗り込んだ。

ふかふかの椅子に座っても、腕は腰にまわされたままで、離してくれる気配がない。

腰にまわっている手を何とか外そうとしても、却って力が込められるだけで、逆効果だった。


―――何が起こっているの・・・さっぱり理解出来ない。

この人は誰・・・わたしをどうするつもりなの・・・?

この、綺麗なリングは何?この間から、リングばかり目にしてる。

この乗せられた馬車もとても豪華で、この男はかなりの身分みたい―――


「あの・・・わたしをどうするつもりですか?」

「今から叔父上の屋敷に向かう。あなたは、聖なる月の日に私の妻となってもらう」

目を細めて微笑む男。


「聖なる月の日?妻・・・って・・・えっ!?」

そんなこと・・・―――優しいブルーの瞳が浮かぶ

アメジストの瞳が不安げに揺れる―――

「聖なる月の日までの間、あなたは、ゆっくりと私のことを理解してくれればいい」
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