シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
馬車が停まったのは街中にある広大な庭を持つ、大きなお屋敷の前。

幾何学的に整えられた花壇には、瑞々しい花がたくさん植えられ、対照的に置かれた二つの噴水は、豊かな水がしぶきを上げて踊っている。

まるで、先日の嵐など無かったかのように美しく整えられている庭。

玄関の前に止められた馬車の周りに、イソイソと集まる沢山の使用人。

目に入るものすべてが、この男の財力と権力の高さを表していた。


「さぁ、こっちに―――」

腰に当てていた腕を引いて、再び抱き上げる態勢を取る男。

「待ってください!自分で歩きます」

少し後退って瞳に拒絶の色を浮かべて、身体を固くした。

すると、意外にもあっさりと腕を引っ込め、先に降りて行った。

エミリーが乗降口に立つと、並んでいる使用人たちが一斉に頭を下げる。

「降りる時気をつけて、私の手に捕まった方がいい」

伸ばされたその手を拒み、ドレスのすそを踏まないよう、ゆっくりと馬車を降りた。


「サルマン様、準備は出来ております。どうぞ」

男が玄関扉の前に立つと、自動ドアのように扉が開けられ、まるで宮殿のような屋敷の中に促されるまま入った。

目の前に広がるホール。天井には目もくらむような豪華なシャンデリア、床にはふかふかの絨毯、壁には大きな肖像画、大きな花瓶には零れんばかりの花。

絵にかいたような豪華な屋敷。全てがきらびやかで、正面にある広い階段からはドレスを着たお嬢様が今にも降りてきそう。


「聖なる月の日までの間、あなたにはここで生活してもらう。
ここは叔父上の屋敷でね、ここ何年か使用してなかったのを借りたんだ。
急いで整備させて、あなたがいつ来ても良いように準備させていた。
もう少しさっきの場所に居てもらう予定だったんだが、気が変わった。
あそこでは不自由も多い・・・あなたの部屋はここだ」


男が機嫌良く喋りながら通してくれた部屋の様子に、息を飲んだ。

一言で言い表すのであれば”花の部屋”

アランの寝室ほどもある大きな部屋の中、至る所に花が飾られている。

ベッドの上にも床にも壁にも窓際にも・・・その光景に呆然としてしまう。


「花が好きと言うあなたのために用意させた。気に入っただろう?」

いつの間にか背後にまわっていた男。

ブロンドの髪の香りを嗅ぎながら甘い声で囁いてくる。

両腕は細い身体を包みこもうとしている・・・咄嗟に男の腕を振り払って、飛び退いた。


「寄らないで!触らないでください!」
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