シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
”シルヴァよ。私の代わりに我がサルマンの屈辱を晴らし、願いを叶えておくれ。神話の、月の乙女を探せ”

祖父が臨終間際に、まだ幼かった私を呼んで言った最後の言葉。

それからもう20年の月日が流れた。

あの頃幼かった私には、何のことかわからなくて父上に訪ねた―――

「父上、おじい様が亡くなる前に言ってたんだ。月の乙女を探せって。月の乙女って何?」

「そんなのは、ただの古い言い伝えだ。そんなことより、お前は家を継ぐためにしっかりと勉強をすることだ。その方がサルマンのためになる。おじい様の言ったことは忘れろ」

厳しく父に言われ、幼い私は言われるがまま勉強に励み、次第に祖父の遺言も忘れていった。

そう、あの日までは・・・。

――その日は、叔父上の屋敷で従兄弟たちと遊んでいた。

かくれんぼをしていたら、誤って書物庫に迷い込んでしまった。

「シルヴァ、戻ろうよ。ここ、大事な部屋だよ。入っちゃいけないの」

「いいんだって。大人が隠したがるところには、絶対面白いものがあるんだ。ほら、見ろ。えーっとこれは」

適当に手にした古びた本の表紙を読むと“日記”とある。

誰のものだろう?裏を返してみると、癖のある文字で”サダム・サルマン”と書かれていた。

「セイラ、これ、昔の人の日記だよ!」

顔を悪戯っこく輝かせてセイラに日記を見せるシルヴァ。

「こーら!お前たち。ここは大事な本がたくさんあるんだ。あっちで遊びなさい!」

いつの間にか入ってきていた叔父上に出ていくように叱られ、手にしてた日記を思わず服の中に隠してしまった。

そして、そのままセイラと一緒に慌てて外に飛び出した。

二人とも息を切らして庭まで来ると、芝生の上にへたり込んだ。

「怖かったね、シルヴァ。もう、あっちで遊ぼうよ・・・どうしたの?」

セイラが私を不思議そうな顔で見つめる。

「ごめん、セイラ。もう帰るよ。また遊ぼう」

服の中の日記が、何故か気になって仕方がない。早く読みたい。

「バトラー、もう帰る。急いで馬車を出して」

屋敷に帰り着くと、母上との挨拶もそこそこに自室にこもって読みふけった。

そこには城勤めのサダムの日常が淡々と綴られていた。

恋愛のことなども書かれていて、それはとても面白く、時間を忘れて読み進んだ。

暫くすると、読み進んでいたシルヴァの楽しげな表情が、次第に曇ったものに変わっていった。

突然文体が激しい口調に変わり、国王や大臣に対する恨みが悔しげに書かれていた。

読み取ると、どうやらあらぬ罪を被せられて城の職を失ったらしい。

城を追われ、ふらりと立ち寄った占いの家。

その占い師が言った言葉が嬉々として大きく書かれている。


”今よりこの後遥か先、光の先より神話のごとき月の乙女が現れる。その者の身も心も制し時、願いは叶うであろう”
< 124 / 458 >

この作品をシェア

pagetop