シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「シルヴァ、待ちなさい」

いつものように出かけようとしていると、屋敷の玄関先で父上に呼びとめられた。

「何ですか?父上」

「最近、また”月の乙女”探しをしていると聞いた。もう、いい加減に辞めなさい。サダムの日記は途中で終わっているが、時の国王様はご先祖様を許し、サルマン家に今の地位を与えて下さったのだ。そのことに感謝し、今の国王様にお仕えするのが、私達の務めだ」

「分かっております父上。”月の乙女”探しはもう辞めましたから、ご安心ください」

「そうか、ならば良いが・・・それから、教授が最近顔を見せないと溢しておられたぞ。」

「分かりました。明日にでも、教授の元に伺います」

「きちんとしなさい。お前はサルマンの跡取りなのだからな」

そう言うと、踵を返して仕事場に戻っていく。


全く、たまに顔を合わせるとこれだ。

いつまでたっても子供扱いな上に、説教くさい。私だってもう25歳だ。立派に仕事だってしている。


「それよりも、父上!お話があります!」

足早に去っていく父親の背中に向かい、追いかけるように言葉を投げるシルヴァ。

「何だ?大事なことか?私は忙しいんだ。夕食のときに聞こう。今日こそは顔を出しなさい。母さんも寂しがっている。いいね!?」

振り返って捨て置く様に言うと、向こうで待っていた秘書と何やら話をし始めた。


――チッ・・・父上はいつもこうだ。私の話など、まともに聞いてくれない。

まぁ、いい。私は”月の乙女”を手に入れたのだ。

私の野望が叶えられた時、あの父上も私の足元に跪くことになるだろう。その時が楽しみだ。

ブラウンの瞳をギラギラと輝かせ、声を立てて笑うシルヴァ。


そのまま馬車に乗り、真っ直ぐに向かったのは”月の乙女”のいる部屋。

光に透けそうな艶めくブロンドの巻き毛、輝くアメジストの瞳、透けるように白い肌とふっくらとした柔らかそうな唇。

ブラウンの瞳を眩しそうに細めた。


―――あの占い師の言った通りだ。

”シルヴァ様。”月の乙女”はもうすでにこの国におると水晶には出ておりまする。見るからに美しく、まさしく神話のシェラザードのようじゃ。場所は城の奥深く。王子の塔に守られておりまする。街を探してもどこにもおりませぬぞ”

シルヴァは、自分の顔を見たとたんに表情を曇らせる娘を、じっと見つめた。

リングを弄っていたのか、か細く白い肌が少し赤くなっている。


「これは特別製だ。鍵がなければ外せない。鍵は私が持っている。外そうとしても無駄だぞ」

腕を掴むと顔を逸らしてしまう。今はまだ駄目か・・・。


しかし、聖なる月の日までに必ず私のものにしてみせる。

身も、心も―――
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