シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
シェラザードって、あの本に載っていた”二つの月の神話”に出てくる天使の名前と一緒。

わたしが”月の乙女”だなんて、そんな大それた者だとはとても思えない。

シルヴァは何か勘違いをしている。

いくら占いで出たとはいえ、それが間違ってるかもしれないとか、思わないのかしら・・・。


「あの・・・何かの間違いではないですか?わたしは、そんな凄そうな人では無いと思います。それに王家に復讐するだなんて、辞めた方がいいと思います。国王様は賢君ですし、アラン様もそうです。今、あなたはすでに権力を持ってるみたいですし、今のままで十分・・・」

シルヴァの妙な考えを何とか改めさせようと、説得を試みるエミリー。

しかし、アランの名前を出したとたん、今まで穏やかだった表情が、何故か一変した。

ソファのひじ掛けに肘を預けて、少し距離を保っていたシルヴァの体が、ジリジリと近づいてくる。


「アラン王子が何だって?あいつが賢君になるはずもない!あいつは―――あいつが何をしたか!」

最後にはエミリーから瞳をそらし、吐き捨てるように激しく罵った。


「あなたはアラン王子のことが良いのか?塔の部屋で、この身体を、あいつに身を任せたのか?」

憤りを含んだ激しい声が部屋の中に響く。


シルヴァが細くしなやかな身体を捕まえようと、腕を伸ばしてきた。

咄嗟に立ち上がって、その場から飛び退く様に離れたが、追いかけるように迫ってくる。

後退りながらシルヴァを見上げた。


「アラン様は、わたしには何もしておりません。アラン様は、こんな身寄りのないわたしに、妹のように接してくださいました。とても優しいお方です」


―――優しさを湛えたブルーの瞳が心に浮かぶ。

いつも守ってくれていた、武骨だけども優しい大きな手・・・

何故か、触れられるだけで幸せな気持ちになれた、わたしにとっての魔法の手。

無表情だけれど、時折見せてくれた柔らかな微笑み。

怖い人だと思うこともあるけれど、優しいと思うこともたくさんあった。

でも・・・もう、二度と会うことができない・・・

あの手に触れられることも、もう声を聞くこともできない―――


「何もしていないだって?それはいい」

獰猛な笑みを浮かべて迫ってくるシルヴァ。

逃げるように後退っていたら、いつの間にか壁際に追い詰められていた。

腕を掴まれて退路を塞がれ、もう逃げることができない。

せめて視界から追い出そうと、瞳をギュッと閉じた。


すると、逸らしていた顔が力ずくで動かされ、


唇が、何か、温かいものに覆われた・・・
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