シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
後頭部を動かないように抑えられ、腕は掴まれたまま。

唇はシルヴァに甘く吸われている。

アメジストの瞳が見開かれ、涙が一筋零れおちる・・・。

「ぅ―――っ!」

小さなうめき声と同時に、シルヴァの手が後頭部から離れた。

そして、自分の唇を手で押さえ、悔しそうに顔を歪めている。

ポケットからハンカチを出して口元を拭うと、白い布が少し赤く染まった。


「これは・・・制し甲斐があるな・・・」

涙に濡れながら、凛とした瞳を向けるエミリー。

その様子は、完全にシルヴァを拒絶していた。


”身も心も制することが必要ですぞ”


占い師の言葉が頭の中で響く。

身体の方はひとまず置いとくとして、心を制するのは時間がかかりそうだな。

シルヴァは悔しげに瞳を伏せ、身を投げるようにして再びソファに座った。


「もう何もしないから、ここに座ってくれ」

そう言うと、テーブルの上の本を手に取った。

エミリーは用心深くシルヴァの様子を観察しながら、なるべく離れたところ、ソファの端っこに浅く座った。

「そんなに警戒するな。本当に何もしない。また噛まれると困るからな」

本から目を離さずに、そう言うシルヴァの唇は少し腫れていた。


―――痛そう・・・

少し、強く噛みすぎちゃったかしら。でも、本当に嫌だったんだもの・・・。

今も、ここから逃げたくて、離れたくて堪らない。

何をされるのか分からなくて、とても怖い。

でも逃げたら、メイがどんな目に合うかわからない。

それが自分のことよりも何よりも、怖い。それだけは、避けなければいけない。

でも、これ以上部屋の中にいたら息が詰まりそう・・・外に、出たい。

この空気から逃れたい。


「あの、わたし庭に出てみたいわ。通りから離れた場所だけで構わないから。逃げないから・・・駄目ですか?」

窓の外はいい天気。少し外の空気を吸いたい。それくらいならいいわよね・・・?そんな気持ちを込めてシルヴァを見つめた。

ねだる様な色を含んだアメジストの瞳に見つめられ、少し驚いた顔をしたが、本を閉じてテーブルの上に投げ置いて立ち上がった。

そして頭を下げて恭しく腕を差し出した。

「庭を案内しよう。ただし、私から離れないことだ」


乱暴に思うこともあるが、こういう仕草は育ちの良さが出ていて、とても品が良い。

自然に腕を取って立ち上がっていた。


「腰に手を回すが、嫌がらないでくれよ」
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