シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「ね、見て。エミリー様がシルヴァ様と一緒に庭に出ておられるわ」

「本当だわ。素敵ねぇ。こうしてみると、やっぱりお二人はお似合いね。シルヴァ様とご結婚だなんて羨ましいわ」

「でも、エミリー様は記憶を無くされていらっしゃるんでしょう?リングの誓いのことも覚えていないらしいわ」

「まぁ、リングのことも?シルヴァ様、お気の毒に・・・」

「でも、見て。あの腰にまわされた優しそうな手。私もあんな風にしてもらえたら、嬉しくて、どうにかなっちゃうわ」

花の入った籠を両手で抱え、興奮気味に話す黒髪のメイド。


庭の花を摘んでいたメイドたちが、散歩している二人を羨望の眼差しで見ていた。

サルマン家と言えば、この国でも指折り数えるほどの名家。

その跡取り息子としてシルヴァは世の女性の憧れの的でもあった。



「先輩、リングの誓いって何ですか?」

若いメイドが興奮気味の黒髪のメイドに向かって聞いた。

「あら、あなた知らないの?」

目を丸くして若いメイドを見た。

「若いから・・・」などとヒソヒソ話しながら、二人のメイドが互いに顔を見合わせている。


「二つの月の神話は知ってるでしょう?あの神話で、リンク王が天使のシェラザードを地上に留めておくために作らせた、魔術を込めたリングが出てきたでしょう」

黒髪のメイドが花を摘みながら、若いメイドに話し始めた。

「はい、学校で神話を習ったので知っています。そのリングを嵌めたシェラザードは、結局病気になって死んでしまうんですよね」

学校の授業で習った神話を思い出しながら、少しぽっちゃりとした若いメイドが答えた。


「そう。そして、死して神の怒りにふれたシェラザードは、空に浮かぶ月にされた。永遠の愛を誓ったリンク王が、命が尽きた時、後を追うように姿を月に変えて貰った。だから空には二つ月があって、時々惹きあうように重なり合う。それが二つの月の神話の話よね?」


「えぇ、それがリングの誓いと何か関係あるんですか?」

訳が分からないとでも言うように、黒髪のメイドを訝しげに見つめた。


「あるわよー。男性が女性にリングを渡す時は、その人に永遠の愛を誓うってことよ。女性がリングを腕に嵌める時は、愛を受け入れたという意味。つまり、プロポーズを受けたってことよ」

黒髪のメイドが人差し指を立てて、得意げに微笑んだ。


「そう、しかもリングはその女性を愛する男性にしか、外すことができないの。一般的には結婚した後に夫が外してあげるの。そして聖なる月の日は、リンク王が亡くなられた日ね」

別のメイドが割って入り、補足の説明をした。


この話をきっかけに、作業の手は御留守になり、雑談が始まった。

恋愛話などもあり、若いメイドは恥ずかしげに頬を染めた。

< 129 / 458 >

この作品をシェア

pagetop