シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「だから、私が先に行って受け取りますと申し上げたのです」

呆れたような色を含んだ声。それ見たことか、とでも言うように眉を寄せ、包帯を巻いた腕を見つめた。

あるものを持って跳躍したら思ったよりも重くて、少々無理をしてしまった。

結果的に腕を捻って痛めてしまったのだが、彼なりにそのことを気にしているのだろう。さっきから隣でぶつぶつ言っている。

私が目測を誤ってしまったのが原因なんだが・・・。


「いや、女性に、一人では無理だとは言えないだろう?それに君は、まだそれが治っていない。任せるわけにいかないだろう」

隣から放たれる鋭い視線を、やんわりと受け止める優しい声。

「しかし、受け取ることは出来ました」彼はまだ納得のいかない声を出す。

「もう気にしないでくれ。この腕は以前にも痛めてね。そのせいもあるんだ。そのときのことは私の人生の教訓にもしているんだが・・・。まさか同じところを再び痛めることになるとは、つくづく縁があるな」


冗談なのか本気なのか分からない言葉。包帯を見る瞳は何故か切なげに揺れている。


「分かりました・・・しかし、どう致しますか?用事はすみましたが、元に戻すわけにはいかないでしょう。かといって、放っておくわけにもいきません」

少し声のトーンを落とし、彼は部屋の隅を見つめた。

「そうだな。もう、元には戻せないな・・・よし、私の屋敷に引き取ろう。ちょうど、手頃なのが欲しいと言っていた者がいる。きっと気に入るだろう」


椅子とテーブルしかないシンプルな部屋の中で、囁くように交わされる会話を怯えながら聞いてる影がひとつ。

それは少しふくよかな身を縮め部屋の隅にいた。


「では、私は急ぎ戻り報告致します。あとの事はよろしくお願い致します」

部屋の隅を一瞥し、彼は足早に出ていった。


―――まったく、あいつはこういうものの扱いを知らなすぎるな。

あいつが厳しい顔ばかりしているから、すっかり手間取ってしまった。

おかげで返せなくなってしまった。ほら、まだ怯えている。


しかし、これでは私たちも奴と同じになってしまう・・・

その姿が、ずっと追い求めているものと重なる。

毎日こんな表情をしているのだろうか。


私の大切なもの・・・

早く取り戻したい。早くこの目で、この手で無事を確かめたい。


早く――――




抑えきれなくなった感情を瞳に乗せ、窓の外の街並みを見据えた。



もう少しだ・・・もう少しで準備が整う・・・・


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