シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「あなたのドレスを作ることにした。明日仕立屋が来る。好きなものを好きなだけ選んでくれ。あなたも新しい流行のドレスが欲しいだろう?」

瑞々しい花の香りが漂う部屋の中。ふかふかのクッションの豪華なソファ。

エミリーは相変わらずその端っこに浅く腰かけていた。

少し間を開けて背もたれに肘を預けたシルヴァが、足を組んで甘い微笑みを浮かべていた。

少し遠慮がちに伸ばされた手は、ブロンドの髪を甘く梳いている。


「私の元に来てもう随分経った。そろそろ笑顔を見せてくれないか?」

少しずつ体を近付け、ふんわりとした巻き毛を一束手に取った。

指の間から零れ落ちる艶めく髪・・・。

それを愛しそうにブラウンの瞳が見つめる。

「まだ、私のことが嫌いか?」

さらに近付いて身体にぴったりと寄って肩を抱き、アメジストの瞳を覗き込んだ。手は膝の上の手を包むように重ねている。

しかし、すぐに顔をそらして瞳は視線から逃れていく。

哀しげに伏せられ、赤みを帯びた手首を見つめていた。


「お願い、リングを・・・外して下さい」

リングをそっと撫でながら声を震わせるエミリー。

「そんなに嫌か?私のことがそんなに嫌いか?」

優しく問いかけるシルヴァの声に、瞳は伏せられたまま。


「腕を赤くするほど、そんなに外したいのか!?」

急に態度を変え、リングを撫でる手を強く握って、イライラと荒く発せられる言葉。

そして乱暴にソファから立ち上がると、腹立ち紛れに傍の花瓶をテーブルから叩き落とした。

派手な音を立てて壊れる花瓶。

辺りに飛沫をあげながら零れる水と花。


―――なんでそんなに頑なに嫌うんだ。私はサルマン家のシルヴァだぞ!

私は・・・こんなにも、あなたを愛しているのに―――

言葉にならない叫びと憤りを花瓶にぶつけ、肩で息をするシルヴァ。

その瞳はとても哀しげだ。


「シルヴァ様!どうか致しましたか!?」

派手な物音に、廊下にいた警備員が躊躇なく部屋に飛び込んで来た。

「何でもない。花瓶を落としただけだ。使用人を呼べ」

天井を見上げ、気を落ちつかせるように瞳を閉じた。

少し後、音を聞きつけた赤毛のメイドが部屋に飛び込んで来た。

ただならぬ雰囲気に、みるみる顔が青ざめていく。

部屋の中をぐるっと一瞥すると、エミリーの元に駆け寄った。

「エミリー様、大丈夫ですか?お怪我はございませんか?」


赤毛のメイドの瞳が鋭く光り、エミリーの震える身体を丁寧に調べた。


「少し、びっくりしただけです・・・大丈夫」
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