シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
赤毛のメイドはエミリーの手を握り、唇を噛みしめて俯いた。

哀しげな瞳でエミリーを見つめた後、腕を組んで壁際に佇んで、使用人の作業を見ているシルヴァを睨んだ。


その瞳は、獲物を狙っている野生の雌ライオンのような輝きを放っている。

シルヴァをじっと見つめる赤毛のメイド。

少し離れたところで、壊れた花瓶を片付けている二人の使用人。

メイドの鋭い視線が様子を窺うように放たれた。

視線を向けられた当の使用人達は、何知らぬ顔で作業をしている。

が、瞬時、他の誰も気付かない程のほんの少しの間、その内の一人がメイドの瞳と視線を交わした。

向けられた視線は、野生の豹のような鋭い光を放っている。

すると、赤毛のメイドは悔しげに瞳を伏せ、唇を固く結んだ。

一瞬で交わされた無言の会話。

胸の前で堅く握られたメイドの拳は、行き場がなくなり空を彷徨った。



突然のシルヴァの行動に、怯えた手を優しく握るメイドの手。

それをエミリーはぼんやりと見つめていた。

自分の手を握っている少し厳つい手。

女性にしては武骨にも見えるその手は、少し震えていた。

メイドの仕事がそうさせたのだろうか、何か所も小さな傷跡がある。

エミリーは震える手をそっと包み込んだ。


「驚かせてしまってごめんなさい。わたしが、すこし・・・粗相をしてしまって。あなたが怖がることは何もないわ。安心して」


優しく語りかける震えた声に、メイドが驚きの表情を浮かべてじっと見つめた。そして再び哀しげに瞳を伏せると、迷いを振り切る様に、サッと立ち上がった。

鋭い視線はまっすぐシルヴァに向けられている。

細い身体がしなり、一歩踏み出す。

花瓶を片付けていた使用人が焦った表情を見せる―――


「失礼いたします。シルヴァ様、お茶をお持ちいたしました」

年配のメイドがお茶のセットを持って部屋に入ってきた。


「まぁ!これはなんということでしょう!花瓶を落とされたのですか?お怪我はございませんか?大丈夫でございますか?」


オロオロとした声を上げ、トレイを持ったまま、シルヴァとエミリーを交互に見つめた。そしてイソイソとテーブルの上にトレイを置くと、立っている赤毛のメイドに目を向けた。


「まぁまぁまぁ、何をしているの。あなたはエミリー様を別のお部屋にお連れして」

「・・・分かりました」


赤毛のメイドは顔をしかめ、シルヴァの体を調べているメイドの背中を睨んだ。
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