シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
二つの噴水が夕日に赤く染まる頃。

広大な庭の端にある庭用具用の物置小屋。

そこに辺りを警戒するように見回しながら入る人影が一つ。

「お呼びですか」

「何で呼ばれたか分かっているだろう?」

「・・・・」

「何をしようとしたんだお前は!何のために我々がここに来たと思っているんだ」

「でも、もう我慢できません!あんな、あんな・・・っ!」

「お前の気持ちは分かる。私だって・・・だが、あの方が我慢しておられるのに、それを無駄にするようなことは、しちゃいけない」

「でも・・・・」

「一番辛い思いをしているのは、あの方だ。いいか?この先何があっても、我慢するんだぞ。早まったことはするんじゃない」

「でもあの方も、きっと本当はそうしたいと思っている筈です」

「例えそうだとしても、だ。勝手なマネはダメだ。」

諭すような落ちついた声と、若く血気盛んな声。

小さな声で交わされる会話は、この後も暫く続いていく。


夕日はすっかり沈み、ギディオンの国が暗闇に包まれていく。


同じ頃、少し広めの部屋の中で、灯りも着けずにソファに座る人影が一つあった。

窓の外のテラスが月明かりに明るく浮かび上がる。

スポットライトを浴びているかのように、はっきりと瞳に映る丸いテーブルと椅子。

この人影は、もう随分長い時をここで過ごしていた。

真っ直ぐに向けられた、その憂いを帯びた瞳に浮かぶのは、日だまりの中でそよ風に揺れる艶めくブロンドの髪。

そこにいるだけで、幸せな気持ちにさせてくれる存在。

想うだけで心臓が痛くなる存在。

もしも、その身に小さな傷が一つでも付いていたら。

もしも、瞳を曇らせるようなことをしていたら。

―――――っ!

想像するだけで、こんなに気持ちが昂る。

こんなに心が騒ぎ立てる。“奴を許すな”と。


だが相手はこの国の重鎮。事は慎重に穏便に、誰もが納得する形で終えなければならない。

しかし、私は、自分を抑えることが出来るだろうか―――


コンコン・・・


「・・・入れ」

「失礼致します・・・っ!・・」

部屋の中に静かに放たれていた冷たい殺気に思わず口ごもる兵士。ピリピリとした空気に、言葉を失ってしまう。

座って前を見据えたまま、微動だにしない。オーラはますます昂っている。


「用件を早く申せ」


「も・・・申し訳ありません!国王様がお呼びでございます」


「――今、参る」
< 137 / 458 >

この作品をシェア

pagetop